業務委託契約書のチェックポイント(発注者側)

1 はじめに

スターアップの創業時には資金が限られていることから従業員を大量に雇用することは難しいことが多いです。そのため、事業運営に必要な業務を外注することが必然的に多くなります。その際に必要となるのが業務委託契約書です。本記事では、スタートアップにおいて利用することが多い、エンジニアとの間で締結する業務委託契約書について解説します。

2 業務委託契約書とは

業務委託契約書とは、文字通り業務を委託する際に締結する契約書です。もっとも、業務委託契約という契約類型は民法において明記されているものではありません。民法上は、売買契約、委任契約、請負契約といった形で契約類型が明記されていますが、業務委託契約はこれらのうちのいずれかの契約or複数の要素を保有する契約or全く新しい類型の契約を指す概念です。

ビジネスの現場では「業務委託契約を締結しましょう」といった簡単なシンプルなワードで会話が進みますが、業務委託契約の内容を詰める作業が最重要であることを認識しましょう。

3 エンジニアとの間で締結する可能性のある業務委託契約書

エンジニアとの間で締結する可能性がある業務委託契約書は大きく以下の3つのいずれかになります。本記事では①請負型の業務委託契約を締結する際に発注側が気を付けるべき点を解説します。

① 請負型の業務委託契約

② 準委任型のうち履行割合型の業務委託契約

③ 準委任型のうち成果完成型の業務委託契約

4 請負型の業務委託契約を締結する際の注意点

① 成果物の内容を特定すること

エンジニアに対して納品を求める成果物の内容を具体的に特定しましょう。例えば、「●●サービスの●●機能に関するソースコード一式」といった形でまずは概括的に記載しましょう。その上で、付随する成果物がある場合には出来る限り具体的に列挙することが重要です。

② 成果物の仕様を明記すること

発注時点で成果物の仕様が確定している場合には、成果物の仕様を明記しましょう。最終的にエンジニアに対して報酬を支払うべきか否かは、仕様に沿った成果物が完成しているかどうかになります。そのため、仕事の完成基準、すなわち報酬の支払い基準は明確にする必要があります。仕様を機能ごとに細分化されて表形式になることが多いので、契約書に別紙としてエクセル等で作成したページを添付すると見やすいです。

発注時点では仕様が確定していない場合には、別途協議すると定めましょう。もっとも、別途協議した結果をテキストに残さないことでお互いの認識がズレて揉めることが多いので、合意したところからテキスト化しましょう。テキスト化の方法としては、既に締結した業務委託契約に紐づける覚書や合意書等の書面の形式が望ましいです。書面が難しい場合には、メールやチャットベースでも良いです。

③ 検収の基準・期間を明確にすること

成果物の納品を受けてからどれくらいの期間を検収期間として設定すべきか、もしくは成果物の進捗を見ながら期間を設定するのかは契約締結時から意識しましょう。また、検収基準として、仕様が明確になっている場合は仕様基準で良いですが、明確になっていない場合には発注者側に裁量が持てる形にするのが望ましいです。ただし、あまりにもアンフェアな内容として納品を不当に拒絶したり、無償での修正を強要すると競争法やフリーランス新法に違反する可能性があるので注意が必要です。

④ 契約不適合責任を定めること

成果物が納品された後に成果物に不備が発見された場合に備えて契約不適合責任について明記しましょう。もっとも、発注者の場合には、法定の契約不適合責任を利用する形でも良いため、法定の内容から変更したい場合に明記するということでも良いでしょう。ただし、大前提として契約不適合責任が適用される契約性質であることは契約書内で明記しておいた方が安全です。

⑤ 第三者の権利の非侵害の保証

成果物は発注者に納品されたから当然ビジネスでの利用が想定されています。そのため、成果物が第三者の権利を侵害している場合にはビジネスで利用し始めた後に第三者に権利侵害を主張され、成果物が利用できなくなるだけではなく損害賠償等の金銭的な負担が発生する可能性があります。そのため、受託者には業務遂行の過程や成果物が第三者の権利を侵害しないことの保証を求めた方が良いです。